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神戸地方裁判所姫路支部 昭和41年(ワ)145号 判決

理由

一  更生会社が昭和四〇年三月六日神戸地方裁判所姫路支部に対し更生手続開始の申立をなしたところ、同裁判所において審理のうえ同月二三日本件開始決定をなし、被告をその管財人に選任したこと、東通が同裁判所に対し本件譲渡担保権設定契約に基づき債権額金一、八六〇万円、債権の種類損害金、担保権の目的物本件鋼屑、目的物の価額金一、八六〇万円、議決権額金一、八六〇万円なる更生担保権の届出をなしたところ、昭和四一年五月二四日の更生債権および更生担保権調査期日において被告が右届出債権額のうち金一三五万三、六八七円につき異議を述べ、なお残額金一、七二四万六、三一三円についても更生債権としてはこれを認めるが、右届出にかかる目的物の評価額が零であるから更生担保権としては認めない旨の異議を述べたこと、原告会社が昭和四一年六月一日東通を吸収合併しその結果従来東通の有していた権利義務を包括的に承継したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、原告は、被告の右異議のうち右金一三五万三、六八七円に関する分についてはこれを認め、右届出債権額からこれを控除したその余につきいわゆる譲渡担保権者として本訴において別紙目録記載のとおりの更生担保権ならびに同額の議決権を有することの確定を求めているので、右訴の適否につき職権をもつて調査するに、およそ会社更生法の適用を受ける会社の財産について譲渡担保の設定を受けたかかる譲渡担保権者が同法上いかなる地位を有するかについては別段明文の規定がないけれども、右譲渡担保の担保的性格に照らし、譲渡担保権者は、原則として更生担保権者に準じてその権利の届出をなし、更生手続によつてのみこれを行使することができるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年四月二八日判決集二〇巻四第九〇三頁参照)。したがつて、もし右届出にかかる右権利につき管財人から異議があれば、右譲渡担保権者は管財人を相手方として右権利の確定を求め得ることはもちろんであるから、右説示に照らし原告の本件訴は許さるべきものであるといわなければならない。

三  そこで進んで原告の本訴請求の当否について以下判断する。

(一)  昭和三九年一二月一六日東通と更生会社との間に、東通がアメリカのボストンメタル社から輸入し昭和四〇年四月入着予定の鋼屑約九、〇〇〇トンを更生会社に売り渡す旨の売買契約が締結されたが、右売買契約はその後昭和四〇年二月二五日ごろ合意解除されたこと、その際更生会社において東通に対し右解除に伴い東通の被るべき損害金一、八六〇万円につき賠償責任を負担するものとし、かつこれが支払いを担保するために本件鋼屑(アメリカ産輸入鋼屑約八〇〇トン)をいわゆる譲渡担保として提供する旨の本件譲渡担保設定契約を締結したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

(二)  ところで、本件譲渡担保設定契約の目的物件たる本件鋼屑は、右のようにアメリカ産輸入鋼屑約八〇〇トンというのであるから、講学上いわゆる集合物(集合動産)に該当するものであることが明白である。しかるところ、かかる集合物を目的とする譲渡担保設定契約が有効に成立するためには、右集合物が現実に存在し、譲渡可能な状態にあることを要するのはもちろんであるが、さらにこれがいわゆる特定性を有し設定者の他の財産から区別できることが必要であつて、このことは別段評論するまでもない。

そこでまず、本件譲渡担保設定契約が有効に成立したものであるかどうかを本件鋼屑の存在ないし特定の有無に照らして判断する。

《証拠》を総合すると、本件鋼屑はアメリカ船アリソン号によつて輸入されたアメリカ産鋼屑約九、四七六トンの一部であるところ、右アリソン号は右鋼屑を積載してロスアンゼルス港を出発し、昭和三九年一〇月二一日姫路市飾磨港に到着し、翌二二日荷降しを開始して同年一一月一一日にこれを完了し同年一二月五日これが積荷割合、品質等級等についての検取すなわちいわゆる揚切を終えたこと、ところで荷降しされた右鋼屑ははしけで右飾磨港運河の荷揚場に運ばれたうえクレーンによつて陸揚げされ、計量を終えた後トラックに分散積載されて姫路市飾磨区中島三、〇〇七番地所在更生会社本社工場内にある通称一号ないし四号ヤードの各鋼屑置場まで運搬され、さらにクレーンによつて右鋼屑置場に積み上げられたこと、もともと更生会社は、かかる輸入鋼屑であると国内産鋼屑であるとを問わずこれを処理屑(切断その他不純物の除去等の処置を要しないもので電炉特級がこれに属する)と未処理屑(右処置を要するもので特級、一級、二級等の別がある)とに分類し、未処理屑については通常その置場として一号および四号ヤードを使用していたものであつて、これらの鋼屑置場は他の二号あるいは三号ヤードに比較してはるかに面積が広くいずれも常時一〇、〇〇〇屯以上の鋼屑を収容する能力を有していること、ところで、前記アリソン号による輸入鋼屑九、四七六トンのうち約五四%はミルホームスクラップ(製造工場発生屑)と称する特別規格のもので、その長さ(2呎×2呎)あるいは厚み(三ミリ前後)等において通常の規格(I・S・I・S規格、長さ5呎×2呎~3呎、厚み六ミリ以上)と異なつていたけれども、その余の約四六%は板ないし形鋼屑等のいわゆるマーケット屑であつて、結局右九、四七六トンの主体は前記特級に属し処理を要するものであつたところから、これが鋼屑置場としては特に前記一号および四号ヤードを使用するように指示がなされていたこと、しかし右鋼屑をこれらの鋼屑置場に積み上げるに際しては、別段前記アリソン号の分として他の一般鋼屑からこれを区別しもしくは明示する方法はとられなかつたこと、しかも、更生会社はかねてより東通その他の業者を通じてアメリカ、東南アジアなどからの輸入鋼屑あるいは国内産鋼屑を買い入れてきたものであつて、現に前記アリソン号に引き続きアメリカ船キングサン号、スプルースワッド号等が輸入鋼屑を積載して前記飾磨港に入港したのであるが、これらの鋼屑のほとんどは前記アリソン号の場合と同様はしけもしくは機帆船等によつて前記荷揚場に陸揚げされ、多いときは右機帆船で一日三〇隻分位もあつたところ、更生会社は、これらの鋼屑のうち前記のとおり処理を要しない分は格別として、その余については特にこれを輸入鋼屑、国内産鋼屑などと区分けすることなく適宜トラックに積載して前記各鋼屑置場に運び入れ、空いている個所に順次クレーンによつてこれを積み上げていたため、右各鋼屑置場にはこれら各種の鋼屑が混然として集積され、高さ六メートル、幅一五メートル、長さ五〇ないし八〇メートルに達することもあつたこと、なお更生会社の鋼屑消費量は一日一、〇〇〇トンを超えることもあつたところ、一般に先に入荷された鋼屑からまず消費されるのが順序であつたが、必要に応じこの順序が逆になつたり、また数箇所からこれを取り出し、あるいは荷揚げする一方からこれを消費するなど適宜の措置がとられていたこと、以上のような鋼屑置場の状況、消費事情等に加うるに、積上後の右鋼屑はこれを覆うものなどなかつたため風雨にさらされて赤さびを生じ、結局本件譲渡担保設定契約が締結された昭和四〇年二月二六日当時どの業者の入荷した鋼屑がどの鋼屑置場にどれだけ残存しているかを判然識別することが到底できない状態にあり、このことは前記アリソン号による前記輸入鋼屑ごとにその一部である本件鋼屑についても同様であつたこと、以上の事実をそれぞれ認めることができる。

右認定事実によれば、本件譲渡担保設定契約締結当時本件鋼屑が一個の集合物として前記各鋼屑置場のいずれかに他の鋼屑類と明確に区別できる状態で存在していたものとは到底認め難いのである。

右につき原告は、右鋼屑が現実に存在し、かつ容易に特定できたゆえんを主張するけれども、右主張にそう証人大野重男(第一、二回)の証言部分は前掲各証拠と対比してにわかに採用し難く、ほかに前記認定をくつがえし右主張を認めるにたるだけの証拠がない。もつとも、成立に争いのない乙第一四号証には前記アリソン号によつて輸入された前記鋼屑が昭和四〇年三月四日当時なお約四二八トン存在している如く記載されているけれども、《証拠》によれば、更生会社においては前記のとおり各業者によつて入荷された鋼屑の現在量を実際上測定できないため、いわゆる移動平均方式によりこれを算出する方法を採用しているところ、右四二八トンというのもかかる計数上のトン数であつて、事実これが他と区別できる状態で現存していた趣旨ではないことを認めることができるから、右乙第一四号証の右記載はなんら前記認定を妨げる事由にはならないものというべきである。したがつて、原告の右主張は採用できない。

以上の次第であるから、前記説示に照らし本件譲渡担保設定契約は結局その効力を生ずるに由なきものといわなければならない。

(三)  そうすると、右譲渡担保設定契約が有効に成立したことを前提として、被告に対し別紙目録記載の更生担保権等を有することの確定を求める原告の本訴請求は、その余の判断をなすまでもなく失当としてこれを棄却すべきである。

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